それでも僕は書き続ける!!

1996年生まれの阪神ファン。プロ野球や日々の感情を文章に表す楽しみを感じながら気ままに書きます

日本シリーズが他人事じゃなくなった瞬間【11/27 対ヤクルト戦●】

両チームのファン以外は面白い日本シリーズ

 

いずれも試合も接戦が続く2021年の日本シリーズをこのように称する人もいる。出場していない10球団のファンは白熱した試合を見られて純粋に楽しんでいるが、スワローズ・バファローズの両ファンにとっては気の休まらない試合が続いている。心臓が持たないのも無理はないだろう。

無論僕も同じような気持ちで日本シリーズを見ていた。どっちに転ぶか全く予想がつかない試合の連続を、ひとりのプロ野球ファンとして楽しんでいた。

 

が、6戦目にしてそのように思えなくなった。

ブルペン能見篤史がいたからだ。

 

 

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ほっともっとフィールド神戸ブルペンが屋外にあるので誰が投球練習をしているのかがすぐに分かる。バファローズ・山本由伸の力投が続いている間はブルペンがテレビ中継で映されることはなかった。だが山本が9回を投げきって延長戦に突入すると、ブルペンがしきりに映るようになる。このシリーズ、両チームともリリーフの出来が不安定だっただけに、バファローズがどういった投手リレーをするのか注目ポイントでもあった。

そんな中、能見が投球練習をしている姿が映った。

まさか、そんな。

この5試合、能見は日本シリーズでの登板がない。それどころかベンチ入りしていない日もある。試合は延長戦に突入している。1点でも取られたら日本シリーズが終わる。そんな場面で起用するのか中嶋聡監督。

 

 

2005年から昨年までタイガースに在籍した能見。二桁勝利5回。長らくタイガースの先発ローテーションを支えた。能見がローテーションに定着した時期はチームが思うように勝てない時でもあった。チームが奮わなくても、援護がなかなか入らなくても、細い腕を目一杯伸ばして、淡々と投げている姿が印象的だった。

2014年は優勝こそ逃したけれどクライマックスシリーズシリーズでカープジャイアンツを破って日本シリーズを決めた。東京ドームでのファイナルシリーズ第4戦目、序盤から大量点を挙げてホームインする野手たちを、穏やかな表情で迎えていた能見の表情は今でも思い出せる。表情を変えないことで知られる能見がグラブを叩きつけて悔しさをあらわにした試合もあった。

 

タイガースが勝った嬉しさも、負けた悔しさも、僕たちは能見と一緒に分かち合ってきた。

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裏の攻撃でサヨナラ勝ちが決まれば能見の出番はなくなる。投げる姿を見たい気持ちもあるが、それ以上にスワローズ打線に捕まってしまう恐怖や心配が上回った。

 

スワローズ戦、リリーフ能見篤史

 

2015年のスワローズが雄平のサヨナラ勝ちでリーグ優勝を決めた試合、そのヒットを打たれたのが当時タイガースにいた能見だったこと、1日たりとも忘れたことはない。

 

(ホームラン打て吉田正尚!試合終わらせてくれ……)

僕の願いも届かず、10回裏のバファローズは無得点に終わった。

 

能見の登場曲であるGReeeeNの刹那が球場に流れる。歌詞の「自分信じて」の部分が「能見信じて」に変わった特別バージョン。甲子園球場で何度も流れた名曲だ。刹那が流れた瞬間、テレビの前で行われている日本シリーズが急に他人事のように思えなくなった。

 

たしかに今投げようとしている能見はバファローズの選手であり、もうタイガースの選手ではない。けれども、これまでずっと喜びも悲しみも分かち合ってきたんだ。着ているユニフォームが変わったくらいで、応援をやめられるはずがない。そんな簡単に割り切れるものではないのだ。

 

対するのはスワローズの4番・村上宗隆。

アウトコースに投じた初球と2球目がいずれもボール判定された。

長打だけは絶対に許してはいけない場面。細心の注意を払った投球に見えた。でも僕の知っている能見はこの程度じゃ動じない。3球目は外のストレートで、4球目はもっと厳しいインコースのストレートで見逃しのストライクを奪った。手を出させないボールが1番安全だ。

勝負の5球目。ストライクからボールになるフォークでレフトフライに打ち取った。能見をずっと支えてきた決め球。強打者を幾度も惑わしてきたフォークで村上にバッティングをさせなかった。僕も気づけば拳を強く握りしめていた。でも能見の表情は変わらない。いつも通りだった。

 

1アウトを取った後、能見の周りに選手とコーチが集まった。能見は対左打者のワンポイント起用だった。表情を崩さず、能見はベンチに戻った。冷静で、されど熱い5球だった。

 

本当のことを言うと、タイガースで現役を終えてほしかった。

たくさんの思い出を分かち合ってきた能見と現役最後の瞬間も分かち合いたかった。

大好きな仲間に見送られる能見が見たかった。

だが、それも叶わなかった。

 

まだまだ勝負がしたい。現役にこだわった能見はバファローズに移籍した。そしてこの日、これ以上無いくらいしびれる場面で起用され、村上を打ち取った。これこそが。能見の求めていたものだったのかもしれない。

まだまだ自分はやれる― それを自らマウンドで示した。

 

能見が現役にこだわってくれて良かった。

やっと、そんな風に思えた。

 

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もういっしょに喜びは分かち合えないけれど、能見信じて。

プロ野球選手・能見篤史」の物語はまだまだ続く。