見返してやれ大山悠輔【11/6 対巨人戦●】
ペナントレースの開幕戦がチームの戦い方を示す場なら、クライマックスシリーズはペナントレースの総決算だ。
「ウチは1年間こうやって戦ってきた」、「ウチは今年ここが成長した」「ここを強みとして勝ち星を重ねてきた」と、対戦相手やファンに示す場であると思っている。毎年不要論が起こるけど、上位チームのやってきたことを緊張感たっぷりで味わえるCSが、僕は好きだ。
だからこそ、「あの男」がスタメンにいなかったことがさみしくて仕方なかった。
大山悠輔だ。
今年の大山は「4番・三塁」で開幕戦を迎えた。それまでのシーズンでこだわり続けた4番出場を実力で勝ち取った。チームが勢いに乗った4月は打率.308、5本塁打。佐藤輝明の活躍に隠れがちでチャンスでは打てないと言われながらも、チームの勝ちにつながる「打点」にこだわり続けた。7つの犠牲フライ7はリーグトップタイ。勝利打点15はチームダントツの数字だ。選手やファンが歓喜にわく瞬間、その中心にはいつも大山がいた。
阪神甲子園球場で幕を開けたCSのファーストステージ。初戦のオーダーに大山の名前はなかった。背中のケガの影響だろうか。いや、タイガースがCSの直前に行った社会人チームとの練習試合には出場している。「やりたいことを試せた」と頼もしいコメントも残している。ファンが知ることができる情報はほんの一握りだ。
大山の本当の状態を知っているのは首脳陣やチームのスタッフだけ。先発出場させられない理由があったのかもしれない。相手との相性があったのかもしれない。
分かっている。分かっているし、その決断に異を唱えるつもりはない。けれども、ペナントレースの総決算であるCSに、今年1年頑張ってきた大山がいない。その現実を僕は簡単に受け入れられなかった。「出られない」と「出さない」には大きな差があるのだ。
今年の大山と去年までの大山。彼が発するコメントが変わった。「4番へのこだわり」だ。ベンチスタートで迎えた去年の開幕戦。三塁を守っていた故障したJ.マルテの代わりにサードのレギュラーを奪うと、「4番・三塁」で試合に出続けた。キャリアハイの成績を残した大山は、4番で試合に出続けることへこだわりを持っているように思えた。
けれども、今年はそんなコメントを聞かなくなった。
「4番はどうでもいい」
「勝てれば何でもいいんです」
Numberのタイガース特集に載っていた大山の言葉だ。嘘偽りない本心から出たコメントだろう。そうでなきゃ、代わりに4番に座って逆転満塁ホームランを打った佐藤輝明の活躍を心の底から喜べないはず。自身のポジションよりチームの勝利を優先する姿。キャプテンとしての覚悟を感じた。
ねえ大山。今も同じ気持ちなの?
CSファーストステージの初戦。9回の裏、大山がバットを持ってベンチから出てきた。プレイボールがかかったときに広がっていた青空は、すでに夕暮れに姿を変えている。
点差は4点。ジャイアンツ・菅野智之に抑えられたタイガースはここまで無得点。諦めに近いムードが甲子園に漂っているのを、テレビ越しにも感じた。
木浪聖也の代打で登場した大山。T.ビエイラが初球に投じた157キロのストレートを弾き返した。鋭い当たりがレフト線に伸びた。一塁走者の糸原健斗は3塁まで達した。甲子園に活気が戻ったように感じた。
結局得点は入らなかったけど、大山のヒットが試合の雰囲気を変えた。
「俺を使えよ!!」
一塁ベース上で表情を変えない大山がそんな風に言っているように思えた。全部僕の妄想だけど。
「プロ野球選手・大山悠輔」の原点は負けず嫌いだ。今でも忘れられないあのドラフト会議。タイガースが1位で大山を指名した瞬間、会場には野球ファンからの「えー?」という声が響いた。大山はあの日のことについて、こんなコメントを残している。
「見返してやるというか、悲鳴をあげた人たちを後悔させてやるんだという気持ちを持って、今もやっている」
見返してやる、後悔させてやる。大山を大きく成長させてきたのは、周りへの反骨心だった。
ねえ大山。今こそ見返してやろうよ。
試合後、矢野監督は大山のスタメン起用を示唆した。当然だ。
確信はないけれど、きっと2戦目は最初から試合に出る。そこで真価が試されるだろう。けれど大山なら大丈夫だ。今年1年どんな苦境に立たされても、自分のバットで突き進んできた。勝利の喜びを一緒に分かち合ってきた。絶対やってくれる。
見返してやれ大山。自分のために打て大山。
その先に、誰よりも追い求めた勝利が待っている。